テキーラ1ml

よい終末を!

改稿以外にやってみたこと

 「きっかけはどうでも」をアルファポリスの第17回恋愛小説大賞にエントリーしました。アルファポリスには二年前に移植済であるにもかかわらず(初出は2020年ムーンライトノベルズです)、予想よりもずっとたくさんお読みいただき、投票の応援もいただけて、大変感謝しています。ありがとうございます!

 この話は以前別の賞に応募して一次のみ通過しています。私は賞への応募をほとんどしたことがないので、名前が載ったのは初めてで、大変驚きました。二次の落選自体は全く悔しくなかったことを覚えています。悔しさは一生懸命やって結構いい線までいきつつも駄目だった時に生じやすい感情だと思っているので、悔しいと感じなかった自分に対しては悔しいと思った。まあ、タグをつけただけなので、落選に感情が動かないのも不思議ではないですが。

 悔しくなるくらい真剣に取り組む経験は重要だと考えています。だからこの話でもう一度何かに応募する機会を持とうと決めました。改稿する時間を今は取れないので、それ以外のことを思いつく限りいろいろやろうと考えた次第です。執筆当時読みやすくまとめることに重点を置いたため、やむ落ちさせたネタがたくさんあるので、長編に改稿すること自体は問題なくできると思います。少し時間を掛ければ。

 

表紙

 まず思いついたのは表紙絵を依頼することでした。
 この話に思い入れはあるのですが、これまで表紙絵を依頼しなかったのは、主に二つ理由があります。一つは「何もせずともそこそこ読まれていたから」、もう一つは「これという構図を思いつかなかったから」です。

 自作には「運よく跳ねたんだろうな」と感じる話もあれば、「(ブクマ・評価数はそこまででもないのに)なんだかとても愛されている!」と感じる話もあります。サイトによって反応に差が出る話もあるのですが、「きっかけはどうでも」はどのサイトでも一定数読まれますし、ヒーローの三浦先生を格好いいと言っていただく機会も多いです。

 これまでの表紙絵は「自分では気に入っているのでもっと伸びてほしい話」に依頼しています。要はテコ入れです。ヴィジュアルの効果は素晴らしく、自作をご存じなかった方にもお読みいただけて、「やったあ!」と単純に喜んでいました。
 「きっかけはどうでも」は何もせずともそこそこ読まれていたので、依頼の必要性はあまり感じていませんでしたが、あえてテコ入れしたらどうなるかと今回考えたのでした。

 必要性はなくても、自作に絵を描いていただくことは非常に大きな喜びなので、依頼を考えたことが全くなかった訳ではありません。実行しなかったのは、ひとえにこれという構図を思いつかなかったからです。静かな話なので「ここを描いてほしい!」という場面を思いつかなくて……。その状態で依頼はさすがに無理ゲーであろう。

 コンノさんには自作の絵を何度か依頼しています。とても信頼しているのでリピーターになっているのですが、今回依頼した決定打は「大人の男性をリアリティをもって描けること」と「スーツの上質さを説得力をもって描けること」の二点でした。私は相手に対する好意と適性を分けて考える方なので、発注は自作の内容と絵の持ち味が重なる方にお願いすることにしています。

 最終的に描いていただいた構図は最初から出ていた訳ではありませんでした。
 コンノさんは依頼した話をお読みくださる方です(本当にありがたいです)。最初に挙げてくださった構図案はどれも、話に合っていて大人の雰囲気で素敵なものでした。ただ、全て引きの構図だったんです。コンノさんの持ち味の一つは、キャラクターの美麗さだと思います。依頼するからには、お互いの持ち味を相乗効果で活かせる方がよい。

 三浦先生は私には珍しい正統派美形ヒーローです。読めば格好いいと感じてくださる方が多いようなんですが、肩書きと年齢でそう思ってくださる方は少ない。コンノさんの美麗な絵で三浦先生の顔をはっきり見たいという欲望を抑えきれなくなり、「三浦先生が律さんに紅茶を差し出しているところ」という構図案を追加でお願いしました。そのたった一言で効果的な構図を考えてくださったコンノさんは、本当に女神ですし、崇め奉らなければならないと思う。

 今回に限ったことではなく、コンノさんは私の意図を汲んだ上でより物語を活かすアイデアを丁寧にご提案くださるので、「それならばこういうのはどうだろうか?」という改善案が私も浮かびやすいです。ブレインストーミングが非常に上手。確かな絵の技術をお持ちなだけでなく、私だけでは決して見えない面を提示してくださる、稀有な方かと存じます。大変強い敬意と感謝の念とを抱いています。

 絵の背景は、以前私が無料の素材で作った表紙を加工しました。主な理由は「キャラクターを目立たせるため」です。他の仕事もお忙しい中、タイトな制作期間にもかかわらずお受けいただいたのは、完全にコンノさんのご厚意なので、少しでも時間を無駄にしたくないと考えたのもあります。

 ネット上で絵を使用する場合、等倍でご覧いただくことは少ないです。今まで幾人かのイラストレーターさんに自作絵を依頼して、背景はすっきりしている方がキャラクターを目立たせられるのではないかと考えるようになりました。私は拡大して細部を見ることが好きですが、多くの人が重点的にご覧になるのはおそらくキャラクターです。縮小しても存在感があることが肝要。構図にもよりますが、背景を緻密に描き込んでいただいても、その労苦は報われにくい。貴重な時間と労力と精神力は有効に活用していただける方がよいです。スーツの生地や優美なティーセット等、人物の近くにあるものを高級な質感で描いていただいたので、キャラクターの魅力と存在感がより際立ったと思っています。

 題字は私が作りました。美しさを追求するのであれば、プロに依頼します(信頼できるデザイナーさんも知っていて、ぜひまたお願いしたいと思っています)。今回は「どうすればよりよく見えるかを考えること」が目的だったので、自分でやりました。私の趣味の一つが「パワポで素人っぽさ全開の画像を作ること」なので、趣味と実益を兼ねたのもありますけれど。

 最初はこれでした。

 いや、素人っぽさ全開にもほどがあるだろ……。でも、いろいろ考えて、結局シンプルな方が絵の邪魔にならなくていいかなと思っ……U・ェ・U(´・ω・`).;:…(´・ω・...:.;(´・ω;::..(´・;::: .:.;: サラサラ..
 ただ、題字のグラデーションは気に入っています! コンノさんにも「フォントの色が服の色とリンクしてる感じで、三浦先生と律さんがまじり合っていくような風に見えて素敵」と言っていただけて、嬉しかった思い出!

 アルファポリスの表紙のサムネイルはかなり小さいです。シンプルだから読めなくはないけれど、それは自作だからタイトルを知っているというのも大きい。グラデーションも小さいサイズだとあまりわからない。ダサい上に可読性も低いって、いいとこないやん……。

 アルファポリスの画面を見ていると気になって仕方なくなってきたので、差し替え案を練ることにしました。どうして私は公開してからじゃないと気づけないのか。タイトルの文字数が少なく、5文字と4文字でも意味の区切りはおかしくないので、左右に分けることで可読性を高める方向に変更することにしました。

 最終的な仕上がりはこうなりました。白い縁取りがないと文字がはっきり見えない。私は視認性の鬼。ダサくても読めないと駄目。光彩難しい。フォントを透過にしたのは正解だった気がします。洒落た雰囲気が少し出た(当社比)。

 最終形態まで阿呆ほど微調整を繰り返しています。どうしてもプレビューを見ている段階では違和感に気づけない。なぜ。

 一応決着したのですが、他の方の宣伝画像を見ていて「なるほど、本の帯みたいなのをつけるのが流行っているのだな」と気づいたので、つけてみたのがこれです。

 「もう人を好きになることなんて、ないと思っていたのに。」は作中に出てくる一文なのですが、いろんなところでキャッチコピーとして使い回しています。便利。ヒロインの恋愛お休み中(だけど好きになっちゃった)という状態がわかっていいかなあと思って。

 「偶然(セレンディピティ)が奏でる 香りと官能の旋律(メロディ)」は普段だったらまずつけないキャッチコピーです。「大人っぽい雰囲気の話ですよ!」ということを表現しなければと思い、心を無にして書いた。修行。本当はメロディよりハーモニーがよかったんですけど(この話には他者との協働の大切さみたいな要素も少し入れたつもりでいます)、ヒロインの名前が「律」なので、律の字を入れる方向に割り切りました。旋律でハーモニーはちょっと違和感があった。

 実を言うとルビを振ったのは文字の背景色をつけたら行間の関係で上部の幅が妙に余ってしまったからです。パワポはこういう調整が難しい。とりあえず「いえ? 演出ですが、なにか?」と素知らぬ顔をしてルビを振ってしまえばいいやろ、と思った。歳を取ると、こういう処理だけは上手くなります。

 「離れると尚更、想いが募る」は作中に存在しません。「偶然が奏でる~」でヒロインの名前を入れたので、作者が忘れがちなヒーローの名前(三浦先生の名前は『(たかし)』)も入れたくなって、尚の字を使った内容と矛盾しない文章を考えました。

 「かたくななアラサー女子×紳士なイケオジ准教授」は属性を明確にした方がいいのかなと思ったので入れました。御曹司・CEO・ホテル王・ヤングエグゼクティブ・医者・警察官・弁護士・芸能人等々、ヒーローの職業で小説を読むか否かをスクリーニングしている方達は少なくないのだろうなと思ったので。
 丸の色はティーカップの縁の色から抽出しました。「偶然が奏でる~」の色は全体の背景と一致させています。

 帯として機能しているかは正直わかりません。ただ、自作のアピールポイントを明確にするという意味では、ものすごく勉強になりました。

 「パワポで素人っぽさ全開の画像を作ること」が趣味なので楽しくなってしまい、裏表紙と帯の裏面も作ってしまったので、つないだものもついでに載せておきます。

 

あらすじ

 タイトルは比較的短いものにすると決めています。説明風タイトルはわかりやすくて読者に親切だと思うのですが、ひとえに自分が覚えられないためです。タイトルで解説しないのならば、あらすじを丁寧に書くべき、なのですが、「きっかけはどうでも」のこれまでのあらすじは「もう人を好きになることなんて、ないと思っていたのに。とある私大の公開講座で私は准教授と出会った。」のみでした。シンプルなところを私自身は気に入っていたのです。でも、やっぱり不親切だよなあ……と実感したので、以下のように変更しました。

もう人を好きになることなんて、ないと思っていたのに。 
会社を辞め、暇を持て余していた律は、私大の公開講座を見に行った。ひょんなことから講演者の三浦准教授の下で事務バイトをすることになり、日々のやりとりを通して二人の距離は少しずつ縮まっていく。
三浦先生はいつも笑顔で、誰にでも感じがいい。今は楽しくても、バイトを一生続けられる訳じゃない。悩んだ律は、ある決断を下す。
偶然がもたらした純粋なラブストーリー。

 アルファポリスのあらすじは「続きを読む」が出るまで約200文字なので(改行や記号の使い方等で多少のズレがあるようです)、文字数に合わせてギリギリまで設定と流れの説明を増やしました。
 みなさんお忙しいです。時間は貴重なので、膨大に公開されているWEB小説をタイトルとあらすじでシビアに選択する。内容がわからないものにはなかなか手を出さないのだろうと思います。

 ちなみに、裏表紙の帯はついでに直したムーンライトノベルズ版のあらすじなのですが、二つの理由から文章の細部を変えています。一つは「ツイッターカードに表示されるムーンライトノベルズのあらすじが94文字で一区切りだから」で、94文字目に読点がくるように合わせています(改行も一文字扱いされます)。もう一つは「あらすじの『続きを読む』の表示が出るまでに使える文字数が多いため」です。ムーンライトノベルズはおそらく274文字で「続きを読む」の表示が出ます。クリックの手間が増えると読まれない確率が高くなるので、私は基本的に「続きを読む」が出ない文字数に収めています。さして大きな違いはありませんが、最後の一文はムーンライトノベルズ版の方が気に入っています。

 

宣伝

 存在を知らないものは読みようがないんですよね。という訳で、あまり得意ではないのですが、今回はがんばって宣伝多めにやってみました。5と10がつく日に宣伝ツイ、くらいの頻度。ただ、大変素敵な表紙絵を描いていただいたため、「とにかくこの絵を見て!!! 三浦先生!!! 圧倒的魅力!!! 美!!!」とテンションがめちゃくちゃ上がっちゃったことは否めないです。いや、だって、この三浦先生、とんでもなくつよい……! 宣伝が苦じゃない素敵な表紙絵を描いていただけて本当にありがたいなと感謝しています。

 

まとめ

 「結局何のためにいろいろしたん? 読んでもらうことが目的なら、小説自体の精度を高めて、一作でも多く書いた方がええやろ? 作品だけで勝負しなよ!」と考えられた方はおそらくおられ、それはあまりにも正しい。でも正しい方法だけを試しても、なぜか上手くいかないようになっているんですよ……! 洋服選びのセンスを磨くには何度か失敗しないと駄目、みたいなやつ。正解だけを拾い集めてもどうしても上手く展開できないようになっている。摂理。

 私がやったことと意図を三行でまとめると以下です。

  • 表紙作成……キャラクターと作品のイメージを伝える。
  • あらすじ変更……作品の設定とハイライトを示す。
  • 宣伝……作品そのものの存在を知らせる。

 「きっかけはどうでも」に関して、私は作者であるにも関わらず、魅力がどこなのかあまり把握できていませんでした。おそらく今でもよくわかっていないのですけれど、「ここをアピールした方が効果的ではないか?」という点は少し見えてきた気がします。

 小説なんだから画像関係の作業をしても無意味に見えるかもしれないのですが、私には大変意義がありました。アピールは本来、タイトルとタグとあらすじと本文でするべきなのだろうと思います。でも「きっかけはどうでも」は足りていない。今回私はアピールの弱さを、表紙絵とあらすじの変更と宣伝で補ったのでした。

 表紙絵の構図が浮かばなかったというのは、真の問題点を突いている気がしています。アピールポイントをわかっていない。当該作に自分の好きなエピソードをいくつか入れた気ではあるのですが、少なくとも私自身は読者に想像させたいポイントをわかっていませんでした。作者も想像できていないことを読者に想像してほしいというのはわがままな話だと思います。

 また、この話を書いた頃くらいまでは「読者が自由に想像できるように外見をあえて描かない」ようにしていたのですが、「読者がきちんと想像できるように外見を描写した方が親切なのだろう」と考え方を変えたので、今はむしろ描写するようにしています。

 映像が思い浮かぶようなそそる設定を組み立てる、印象に残るエピソードを丹念に描く、キャラクターの魅力を強化する、というのは今後も大きな課題です。

 私はタイトルは短めで想像の余地があるものが好きですし、ネタバレ絶許なのであらすじも途中までのシンプルなものがいいと、これまでは思っていました。でも作中に何が描かれているのかわからなければ、読もうかなと思う人がどうしても増えづらい。タイトルはこれからも説明系のものにはしないと思うので(重ねて、自分が覚えられないからです)、せめてあらすじはもっと物語の世界に入りやすいものにした方がよい。読者のノイズになるこだわりは捨てよう。多くの投稿者が既に気づいて対策を立てていることに今更気づけた、という話です。「見え方」を意識することで、何を書かなければならないのかが見えた。今後改稿するとしても、無意味に文字数が増えただけになる心配はなさそうです。

 これまで特段アピールを心掛けなかったのにお読みいただけていたのは、単純に運がよかったのと、ずっとお読みくださっている方達のおかげだと確信しています。継続してお読みくださっている方達のなんらかの口コミ(ブクマ・評価欄からのリンクや読了ツイート等)が「読んでみようかな?」と興味を持ってくださる方へとつながった、ということなのだろうと。改めて、ありがとうございます!

 こんな次第で、今回は短時間でやれることをやって改善点を洗い出した気でいるのですが、大変すがすがしく、今後もがんばろうという気持ちが非常に強く湧きました。応援してくださった方に報いるならば結果がよいに越したことはないのですが、実は結果はどうでもいいと思っています。「きっかけはどうでも」に対して、私が今できることはやった。上手くいかなかったら悔しくなるくらいがんばるという趣旨であったはずなのに、おかしいな。まあいいや。

 最後に二点明記しておきます。

 一点目は、どうすればブクマ・評価数が伸びるかという話をしたかった訳ではない、ということです。そういうのはランキング上位常連者が書かないと説得力がないですし……。私が考えたことは「より効果的に伝えるために何を意識すべきか」で、試行錯誤の記録に過ぎません。
 私は自分が読者側の時に、ただの数として扱われるのがあまり好きではないです。作者側からしても、作品製造機と思われることを嫌う人はおそらく多いでしょう。「読者も作者もお互い人間である」ということを私は忘れたくないです。ブクマ・評価の基準は人それぞれなので数は目安に過ぎないですし、楽しんでいただけたかどうかはまではわからない。作者側としては、描きたいものをより伝わりやすく表現したいですし、欲を言えば自作を読んで感じたことをお伝えいただけたらとても嬉しいです。
 実際、今回の行動は効果があり、閲覧数とお気に入りは結構伸びました。初出が三年半程前の作品なので、何もせずに伸びるということはまずないです。内容表現にしても、作品自体の存在にしても、適切な形で相手に届けることは本当に難しいと考えています。結果から、今回の行動の方向性は概ね間違っていないだろうと判断しました。

 もう一点は、今回なぜ改稿しなかったのかということで、これは単純に「改稿するよりも新作を書くことに時間をあてたいと考えた」からです。「きっかけはどうでも」は気に入っていますし、改稿すれば違いを確認するために既読のみなさんも再読してくださったかもしれません。でも、指針がない状態で改稿しても「無駄に文字数が増えただけで改稿前の方がよかった」ということになりかねない。それはせっかくの時間と労力がもったいなさすぎます。
 今年度は私生活が忙しくてあまり投稿できなかったのですが、私は書きたいものがたくさんあります。時間は有限ですし、過去の一作に過度に囚われていても仕方ない。私は今、同時並行で数作書いています。遅筆なのでなかなかまとまらないですが、とても楽しいです。死ぬまでに一作でも多く完成させたいですし、何度も繰り返し読みたいと思わせる精度にしたいです。

 新作を投稿した時にお読みいただけたらとても嬉しいですし、楽しんでいただけたら作者冥利に尽きます。今後ともよろしくお願いいたします!